【二代目経営者の孤独】属人化は“悪”なのか？ベテランの「暗黙知」を会社の資産に変える、もう一つのDX

2025年7月11日

会社の未来のために、変革の舵を切りたい。

しかし、その一歩を踏み出すたびに、胸をよぎる「不都合な真実」はありませんか？

「この改革は、先代と共に会社を支えてきた功労者（ベテラン社員）を、間接的に『不要な存在』だと断罪していることと同じなのではないか…？」

ベテランからは『伝統を無視するな』と抵抗され、若手からは『いつまで古いやり方を続けるのか』と突き上げられる。両方の言い分が正しいからこそ、誰にも本音を話せず、たった一人で答えの出ない問いを抱え続ける。

その孤独な戦いに、今、終止符を打つ時かもしれません。

もし、DXがベテランを切り捨てるのではなく、彼らの「知恵」こそを会社の未来を照らす最高の資産に変える手段だとしたら？この記事は、そのための具体的で、血の通ったロードマップです。

「どうせうちのベテランは…」その諦めが、一番のボトルネックだった

「良かれと思って進めた変革が、現場から『そんなこと、頼んでない』と、そっぽを向かれてしまった経験はありませんか？」

実は、10年前の私が、まさにそうでした。

当時、製造業の品質管理部門にいた私は、もっと情報を共有し、品質を高めたい一心で、独学でプログラミングを学び、業務アプリを開発しました。最新機能を盛り込み、これでみんなの仕事が楽になるぞ、と自信満々でした。

しかし、現実は非情なもの。

特に使って欲しかったベテラン社員からは、「へーすごいねー」の一言で、あとは我関せず。彼らにしてみれば、「現場も知らない若造が作った、お遊びの道具」くらいにしか見えなかったのでしょう。

「もっと機能を増やせば…？」「マニュアルを作れば…？」

何をしても、彼らの心は動きませんでした。結局、そのアプリは私しか使わない、自己満足の塊になってしまったのです。

この苦い失敗は、私に一つの真実を教えてくれました。現場のDXは、「正しいツール」から始まるのではなく、「人の心」から始まるのだ、と。

あなたの会社の“本当の資産”は、決算書には載っていない

多くの経営者が「属人化」をリスクだと考え、解消しようと躍起になります。しかし、一度立ち止まって考えてみてください。

「あの人にしかできない仕事」があるということは、「その人にしか出せない、極めて価値の高いスキルやノウハウが存在する」ことの裏返しです。

問題の本質は、「属人化」そのものではありません。その価値ある知恵が、一人の人間の頭の中や感覚の中に留まっている「暗黙知」の状態であることです。

特に、事業を継承した経営者様が抱える「隠れた不安」。それは、「あと数年で、あのベテランが退職してしまったら、会社から最も価値ある資産が、永遠に失われてしまう。自分は、それをまだ『継承』できていない」という焦りではないでしょうか。

DXの真の目的は、この「暗黙知」という名の“埋蔵金”を掘り起こし、会社の誰もが使える「形式知（＝会社の資産）」へと変換していくプロセスそのものなのです。

【動画公開】私が「変革のジレンマ」を乗り越えた、たった一つのきっかけ

とはいえ、「言うは易し、行うは難し」ですよね。ベテランの知恵が大事だと頭ではわかっていても、どうすればその固く閉ざされた心を開き、協力を得られるのか。

実は、私がベテランから総スカンを食らい、孤軍奮闘していた時、状況が180度変わる、ある出来事がありました。それは、

一人の事務員さんが漏らした、ささやかな悩みがきっかけでした。

「自分が作りたいカッコいいアプリ」ではなく、「現場の誰かの切実な悩みを解決する泥臭いアプリ」こそが、人の心を動かす。この当たり前の事実に雷に打たれたような衝撃を受け、目の前がパッと開けたのです。

この記事でお伝えしたい哲学の根幹となる、私の原体験と、ベテラン社員との関係構築の具体的なステップについて、下記の動画で詳しくお話ししています。なぜ私が「ツール」基点の考えを捨て去ることになったのか、その生々しい失敗談をぜひご覧ください。

[▶ 動画で見る：私がベテランから総スカンを食らった話と、そこから得た逆転の秘訣]

なぜ、ノーコードが「暗黙知」を掘り起こす最強のスコップなのか？

では、どうすればベテランの頭の中にある、言葉にしにくい「感覚」や「コツ」を、会社の資産に変えることができるのでしょうか。

その鍵を握るのが、プログラミング知識がなくてもアプリを開発できる「ノーコード」という技術です。

高額な外注システムが、なぜ現場で使われずに“置物”になってしまうのか。それは、外部の人間には現場の「ニュアンス」や「空気感」まで汲み取ることができないからです。

しかし、ノーコードは違います。

主役が「現場のプロ」になる: 業務を最も深く理解しているベテラン社員自身が、開発の中心に座ります。「あの時の、あの状況判断は、実はこういう理由なんだ」という暗黙知を、若手と対話しながら、自分たちの手でアプリの機能として「表出化」していくのです。
「教える側」という誇りが生まれる: 「自分の仕事が奪われる」という恐怖は、変化への抵抗を生みます。しかし、このプロセスにおいてベテランは、若手に知恵を授ける「先生」になります。その経験は、彼らをDXの抵抗勢力から、最も頼もしい推進者へと変えるのです。
対話と共創の文化が生まれる: 「『100点の計画より、60点の試作品』。これは、私がかつて、誰にも使われない完璧なアプリを作ってしまった失敗から、血の滲むような思いで学んだ教訓です」。ノーコード開発は、まず不格好でも試作品を作り、皆で触りながら改善を重ねるプロセスです。この「共創」の体験が、世代間の壁を溶かし、組織に一体感を生み出します。

今日からできる！「自走する組織」への、はじめの一歩

高価なコンサルティングや、大規模なシステム導入は必要ありません。今すぐ、あなたの会社で始められることがあります。

Step 1：たった一言、「先生として、教えてください」と頭を下げる かつてアプリを無視された私が、ベテラン社員の心を動かせたのは、最新機能の説明ではなく、この一言でした。特定の業務について「先生」になってもらい、若手も交えて、その極意をとことん語ってもらう場を設けてみてください。あなたは聞き役に徹するのです。

Step 2：無料ツールで「お試しプロトタイプ」を一緒に作る Googleの「AppSheet」など、無料で始められるノーコードツールはたくさんあります。Step 1で聞き取った内容を元に、まずは見積書の顧客名を選ぶだけの画面でも構いません。ベテランと若手が一緒に「自分たちの手で、仕事がデジタル化されていく」という小さな成功体験を共有することが目的です。

Step 3：哲学を共有する『最初の成功は、ベテランに捧げよ』 完成した小さなアプリを、ぜひ朝礼などで共有してください。そして、こう宣言するのです。「私たちの会社では、DXの最初の成功は、長年会社を支えてくれたベテランに捧げます」と。この哲学が、変革への恐怖を、未来への希望へと変えていきます。